船のカタチ (11a)   高速前進感について   2010-11 神田 修治


  船のカタチにおいて高速前進感は大切なことと思います。

  船のカタチ(10)では客船AQUITQNIA(AQ)のシルエット質量感の前後分布について記しました。
  船のカタチ(11)ではQUEEN VICTORIA(QV)等の船室確保と高速前進感の両立の工夫について記しました。

  これらを見るとAQのシルエットの図心Gは船体中央よりも前にあるが、QVではGはよりも後にあります。
 すなわちシルエットの質量感は近年後方へ移動する傾向にあるといえます(下図A)。 この傾向は他の客船や
 カーフェリーにも見られるし、船だけでなく、航空機でも認められます(下図B)。 航空機の場合は超音速飛行に
 対する後退翼という技術的理由があります。技術的理由といえば船の水中部分の形状も高速(フルード数が大)
 になるに従ってブロック係数Cbを小にするとともに浮心Bをより後方にするといわれています(下図C、ref.1)が、
 これも似たような話だと思います。 このように船のカタチは図心Gを後方に移すことによって高速前進感を出して
 いると思います。 また、船のカタチといっても技術的事項がまず大切とも思います。

  一方このことは見る側の人の感覚も関係する、そして人の感覚には馴れるということがあると思います。
  図心Gが中央より後のあるカタチとは、大まかに言って前部が細くとがったカタチといえますが、上記の他にも
 新幹線車輌の前端なども、以前のまるい先頭にくらべ最近はとがったカタチで、私ははじめアヒルの嘴みたいで
 醜いと思いましたが、見馴れるとよいカタチと思うようになりました。 さらにたとえば(下図D)のように油タンカーや
 ばら積貨物船等のアフトエンジン船のカタチも、以前ブリッジは船体中央より前にあり、その後アフトブリッジの船が
 出現した時は私も違和感を覚えましたが、いまではこのカタチに見馴れて自然に感じます。 ところが見馴れると
 いうことは見る側の事情であって、カタチを創り出す側はそんな悠長なことは言っておられない。 見馴れることも
 含め見る側の人々の感覚を先取りすることが、創り出す側には必要だと思います。



 ref.1  例えば 大串雅信 理論船舶工学−下 海文堂1958 p132

                                                                (次回につづく)

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