船のカタチ(79)  米国コーストガード カッター (および 海上保安庁 小型巡視艇)
              A.HAMILTON <1936>級、 CACTUS <1941>級 → だいおう<1950>級、
              THETIS <1931>級 → あわじ <1950>級、
              HAMILTON <1967>級、 BERTHOLF <2008 >級
                                                                   2016-07 神田 修治

海上保安庁(海保)シリーズは7回となりましたが、今回をもって海保シリーズを終了といたします。 さきに、海保初期の巡視船は、米コーストガードUSCGの巡視船を手本にしたと記しました。 (船のカタチ-73-78
そこで今回は、このことを意識しながら、米コーストガード巡視船(USCG Cutter)の中からピックアップして図示します。

注) 図中 一つの船につき左右二図あるは、左側は正横側面図、右側は船首45°右舷から見た図を示す。


ALEXANDER HAMILTON<1936>級25隻・・・USCGの当時の代表的巡視船、広域救難、麻薬取締等が任務。 米海軍哨戒艦ERIE級を手本に設計され、水上飛行機を搭載して運用する型式。
CACTUS<1941>級39隻・・・設標船(Buoy Tender)、本船を手本として海保巡視船だいおう<1950>級が設計された(1)。
THETIS<1931>級17隻・・・アルコール密輸取締等の警備救難に従事、海保巡視船あわじ<1951>級の手本(1)。
HAMILTON<1967>級12隻・・・1960年代の代表的巡視船、CODOG機関(2)、ヘリ運用等画期的な船で、カタチも美しい。
BERTHOLF<2008>級8隻建造の計画・・・最新タイプ、ヘリ運用可能、小型艇揚収ドック設備を有し、船体は美しく レーダー探知されにくいステルス船型、テロ対策を意識しNational Security Cutterとも呼ばれ、現在USCGの代表的巡視船。

USCGは、有事には米海軍USNの指揮下に入るとされ海軍の予備という性格もあり、USCGの歴史による独特の役割に応じた高性能の船の立派な船隊を擁しています。 図示した船はその中の限られた一部をピックアップしたものであります。 一方、当時手本として提示された船は必ずしもUSCGの最高級の船ではなかったようです。 また日本海保のために最適の船を、という配慮もあまりなかったようです。 しかし日本の海保は提示された手本をもとに、日本周辺の海象、環境や、日本海保の運用に適した船の設計に注力し、まもなく日本海保独自の設計思想を確立し、立派な船隊を整備したと私は思います。 そして資料によると、この過程において旧日本海軍の技術者の貢献はたいへん大であったと記されています (3)。

   (1) 福井静夫、 海上保安庁の巡視船(1)~(3)、 船舶 1951
   (2) CODOG : Combined Diesel or Gas Turbine
   (3) 徳永陽一郎、海保船艇草創期の思い出、世界の艦船538、1998-05



船のカタチ(79A)  海上保安庁(海保)補遺  PC、CL等の小型巡視艇
              ちよかぜ <1971>型、 やまゆり <1978>型、 ひめぎく <1992>型、 しきなみ <1971>型、
              はやなみ <1993 >型、 ことなみ <2011>型、 むらくも <1978>型、 はやぐも <1999>型、
              英 RNLI-SEVERN型、 米 USCG-44foot MLB、7m搭載艇
                                                                   2016-07 神田 修治

海保の船艇には、大型の巡視船と、小型の巡視艇があります。 この海保シリーズでは大型の巡視船を中心にやってきたが、シリーズ最終回に当たり小型の巡視艇を補足します。

それは海保業務には小型の巡視艇の仕事も重要であり、多数の巡視艇が活動しており、それを説明したかったのと、このシリーズでは各船艇を同一縮尺で図示するのが特徴ですが、巡視船に適当な縮尺では、巡視艇は豆粒のように小さくなってしまうので、これに対して縮尺の大きな図によって、艇のカタチや特徴を詳細に説明したいと思ったからであります。 

注) 図中 一つの船につき左右二図あるは、左側は正横側面図、右側は船首45°右舷から見た図を示す。


船のカタチ-75 働き者船艇の中から ひめぎくことなみを取上げ、-76 高速船艇の中から はやぐも を取上げたが、デザインの系譜を意識して、それぞれ前船(マエブネ)を並べて図示し、艇の性能とカタチの進化を考えることにしました。
ちよかぜやまゆりひめぎく の系列は沿岸パトロール艇でそれぞれ多数の大ファミリー、今は ひめぎく が活躍中。
しきなみはやなみことなみ の系列、しきなみ はパトロール、海難救助等の汎用艇であったが、はやなみ では航路哨戒を主務として視界を広くするためブリッジを2層とし大型となった。 ことなみ では小型化が図られブリッジは1.5層。
むらくもはやぐも 系列は高速型。領海警備を念頭に むらくも が建造されました。 はやぐも は新日韓漁業協定に応じて建造されたが、高速性能が優れていたので むらくも の後継として量産されたそうです(1)。 ブリッジは1.5層タイプ。
また上図には船のカタチ-75 に記したMLBについても図示しました。 船のカタチの詳細が見て取れます。

以上、船のカタチ-73-74-75-76-77-78-79に海保の船を見ましたが、海保は終戦直後、日本海軍の消滅に対応し、米USCGを手本として創設された後70年以上の歴史と発達を重ね、世界的にもトップクラスのコーストガード機関となりました。 その船艇は初期にはUSCGを手本としてマルチ機能の船を造り、その後海保の役割も明確にし、それを踏まえて日本の海保に適した機能的な船艇を建造・整備し、現在の大フリートへと進化・発展しました。 現在、北朝鮮の社会不安と危険な軍事行動、中国の海洋進出などの武力による現状変更の試み等、東アジアの国際動向を考えると、海保の役割はますます重要になってゆくものと思います。 今後の海保の活躍を期待しつつこの海保シリーズを閉じたいと思います。

    (1) 海上保安庁2016特集、 世界の艦船840、2016-07 pp80


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