船のカタチ(81)  日本の戦時標準船 2A型 および 改造船 2A改型
               2A戦時標準船 <1944->、
               永禄丸 <1944・1950改>、 大瑞丸 <1945・1950改>、 延長丸 <1944・1951改>
                                                                   2016-09 神田 修治


前回(船のカタチ-80D)にも記しましたが、米国の戦時標準船につき、私は次のことに感心しました。
 ①戦時急造にかかわらず、船舶安全、性能上しっかりした設計の船であったこと。
 ②船のカタチは、イカツイけれど良いカタチで、関係者の気概・やる気を起こさせるものであったと私は思う。
これらは、人間の生命と尊厳を大切と考え、人間を尊重した設計・カタチであったと思います。

これに対して日本の戦標船は、この考えが欠如していたと私は思います。 そう思う理由は、船舶安全上必須の二重底がなかったことや、縦強度(I/y)が不足であったこと等です(1)(3)。
また船のカタチも貧相であったと思います(例:2A型、上図1段目)。 戦時急造のためとはいえ、そのカタチには手抜きが多く、本船に命がけで乗組む人たちの、人間性を蔑ろにし、やる気を起こすどころか、逆に意気消沈させた、と私は思います。

あの戦争をやった軍部(陸軍・海軍)は、国を守るのではなく、自己や自組織を守ることを第一とし、一般の人々を楯にし、犠牲にしたと言われていますが(2)、上記のように戦標船にもそれが現れていたと思います。 船の設計・カタチは2A戦標船のようであってはならず、人間尊重であるべきと私は思います。(注)

そして戦後・・・、残存した日本の戦標船を改造して外国船級を取得し、外国航路に配船運航する活動がありました(1)(3)。 上図には戦標船2A型貨物船を改造した 「2A改」 の船を示します。 NYK
永禄丸級とOSK大瑞丸級は米国AB船級の要求により主機レシプロを高馬力のタービンに、船尾機関を中央機関にし、二重底増設、中央船楼増設(I/y増大)、中間フレームやインタコスタルガーダを増設して船級を取得しました(28隻)。 NYK延長丸は仏BV船級を取得したがBV船級では中央機関や中央船楼増設の要求はなかったようです。

  (1) 昭和造船史-第1巻pp295、第2巻pp299、戦時標準船とその改造、日本造船学会編、原書房1973
  (2) 例えば 竹内、あの戦争は一体何だったのか、原書房1997、
  (3) 高橋、2A型戦標船の改造、船舶1950



(注) 戦標船等における人命安全・船舶安全について

「人間尊重の船舶設計」 ということに関連して人命安全・船舶安全について記します。
戦標船や軍艦のように戦(いくさ)の船は敵を破壊するのだから、人命安全の配慮は不要かというと、そんなことはなく、味方の安全は確保する必要があります。 ところが今回、日本の戦標船を調べていて、これらの船では安全を軽視してよいのか、との思いが頭をかすめたが、それは違うと私は思います。 以下関係者には周知のことだが、これらの船の船舶安全についての規則等について、資料(4)を援用して復習します。

現在日本の法律で、船舶の安全は「船舶安全法」(1933年制定)に規定されており、その第1条に 「堪航性と人命安全の施設」 をなすべきことが規定されています。 ところが戦の艦船、すなわち海上自衛隊の使用する船舶は武器・火薬の使用等、「船舶安全法」の通りすることが困難なこともあるので、 「自衛隊法」(1954年制定)の109条において「船舶安全法」の適用除外が規定されています。 それでも安全が不要ということではなく、自衛隊法111条には、このような船においても 「堪航性と人命安全を確保するため必要な技術基準を定める」 よう規定されています。 それは 「船舶の造修に関する訓令」 (1957年制定)であり、これの第3条には 「堪航性と人命安全を確保するための設計基準」 等を定めるよう規定されています。 このように自衛隊の使用する船舶についても、堪航性、人命安全については「船舶安全法」と同様・相当の取決めがなされているのです。

よく言われるように、船の設計に当たっては3S(Stability復原力、Strength強度、Speed速力)が重要とされますが、戦の船ではさらに加えて2S(Stealth隠密性、Survivability残存性)が重要とされます(4)。 戦において、敵に見つかりにくく、生き残ることが重要だからです。 私は現職中潜水艦の設計に関係し(船のカタチ-49)、特に潜水艦救難の分野に深く関係しました(船のカタチ-56)。 これは上記のSurvivabilityに相当し、人命安全、人命救助に関連し、ひいては人間尊重につながることと思います。

以上は現在の海上自衛隊の使用する船舶の安全性についての規則等ですが、さて今回の戦標船のように、旧日本海軍の船舶において人命安全の規定はどうなっていたのか、今回すこし調べてみたのですが、そのような規則・規定は見当たりませんでした。 旧日本海軍については、 「特攻」 とか 「捕虜になって生き残るのは不可」 とか、人命軽視の風潮であったという論評を多く見聞します。 また今回の戦標船の二重底欠如のこと等を考え合わせると、旧日本海軍には、現在の海上自衛隊のような人命安全の規則規定はなかったのではないかと私は推定します。 もしそうなら、旧日本海軍の善くない問題点と思います。 それに対して、現在の海上自衛隊のように、船舶安全の考えが導入されていることは善いことと私は思います。 そして私は、その導入の経緯や、それと戦後の日本社会の民主化との関係等について知りたいと思います。

あの戦争が終わったとき私は小学2年生、その後、戦後食糧難等もあったが日本の民主化の中に育ち、平和に暮らしました。 そして上記のように海上自衛隊に関係する仕事をやりましたが、日常業務にかまけて、あの戦争や旧海軍について調べ、考えること乏しいまま過ごしてきてしまったと、今更ながら反省します。

このように、旧日本海軍の船舶安全の規則等についての私の調査は不十分であると思います。
この点については今後もできるかぎり調査したいと思います。 
読者諸兄のご知見をご教示いただくとありがたいです。

以上、今回は戦標船を糸口として、戦争における船の安全、人間の安全について考えてみました。
日本社会の平和は70余年続いたが、これが今後も永く続くことを切に願います。 
私たちは平和を維持するために何をすべきかを考えることが必要と思います。 
まず、平和に慣れすぎないことが大切と私は思います。 
また短慮な敵愾心はよくないと私は思います。 
忍耐と熟慮が大切と私は思います。


  (4) 海上防衛技術のすべて、艦船設計編、防衛技術選書、防衛技術協会2007

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